読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

伊織 椒のブログ(仮)

日々の生活、喜びと悲しみ、特別な出会い、ちょっとした考えや思いつきを書き残すもの。

『jewelries!』シリーズと、速水奏のカヴァー楽曲について

私は、『奏』が選曲されたことには満足していません。

この記事では、まず、募集サーバーの不調に際する再募集において私が応募した文章を公開します。次に、私の応募意図を解説します。最後に、『jewelries!』第3弾における選曲への感想を述べます。

再応募時に投稿した文章

投稿した文章を公開する前に、当時の特殊な事情を説明します。

『jewelries!』第3弾の本来の募集期間においては、投稿可能な文字数が制限されていませんでした。しかし、再募集時には、予告や明確な説明が全く行われないままに、投稿可能な文字数に制限が設けられました。以前の文章を締め切り寸前まで推敲したものを投稿する予定でしたが、不明瞭な仕様に対して試行錯誤している内に投稿計画が破綻しため、日本コロムビア様へ問い合わせを行ったところ、正規の応募フォームを用いない方法による投稿を特例的に許可していただけました。

したがって、以下の文章は当時の応募フォームに設けられていた文字数制限と無関係の内容となっています。ただし、再募集にて設けられた文字数制限を配慮して、最初に応募した文章を基に、2000字以内になるように再構成を行いました。また、今回の公開では記事としての可読性を考慮して、改行箇所のみは応募したものから変更しています。

私の不躾な要求に対して寛大な措置を施してくださった担当者様には、改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました。

■応募曲をうたってほしいキャラクター名:速水奏

■曲名:『romanesque ~Full Size Mix』
■オリジナル歌手名:FictionJunction YUUKA
■選考理由:
速水奏の多彩で複雑で繊細な魅力の内、奏の言動にしばしば表れる哲学的な世界観や、[蒼翼の乙女]、[夜色の花嫁]、[追憶のヴァニタス]などのカードで示される幻想的な姿を鮮烈に表現できる楽曲を目指して選曲しました。

また、『Hotel Moonside』と似たことをしては貴重な機会が勿体無いという意図もあります。常に新しいものを目指すという『アイドルマスター』の根幹的な精神性を多分に意識したのです。

そして何よりも、今回重視した諸要素は奏の強烈な特徴であり魅力だと思うのですが(ちなみに、『シンデレラガールズ』で最も好きなカードは[追憶のヴァニタス]です。絵も台詞も全部が大好きです)、『Hotel Moonside』では他の要素が優先的に表現されたため、今回の企画では絶対に重視されるべきだと考えました。

もちろん、これまでの諸作品にて積み重ねられてきた奏の為人や、モバゲー版『シンデレラガールズ』や『マジックアワー』にて奏が自ら行った歌への言及も極めて重要なものとして尊重しています。

『romanesque ~Full Size Mix』は、上述の諸条件を満たしているだけでなく、『Hotel Moonside』の好対照として互いの魅力を高め合えると確信している楽曲です。

例えば歌詞は、現実を冷静に捉える知性と理想を渇望する情熱とバロック的な世界観が最後まで渾然一体となっており、まるで予め奏のために書かれていたかのような素晴らしいものですし、〈時〉や〈星〉といった『シンデレラガールズ』全体を象徴する要素が含まれていることも面白いです。

音についても、アコーディオンなどの生楽器を伴ったヴォーカルが情熱的に歌い上げる楽曲構成は、いわゆるEDM的な『Hotel Moonside』とは好対照であり、奏の歌の新境地を示し得るものでもあります。また、[蒼翼の乙女]、[夜色の花嫁]、[追憶のヴァニタス]などのような幻想的な姿の奏が歌うなら、デジタル系よりもアナログ系の音色こそが相応しいだろう、という意図もあります。

〈激しい/悲しい/報われない恋の歌〉、〈希望がある〉、〈しっとりした楽曲ではない(BPMが高め)〉といった、好きな歌や歌いたい歌についての奏自らの言及にも完全に対応しています(『マジックアワー』で言及していた、複数人で歌うという要素だけは、今回の企画内容と矛盾するので条件から除外しました)。諸行無常の世界で永遠のような恋を求める決して報われない心情とともに、〈今〉の幸福という切ない希望の存在をも示す歌詞。そして、数々の楽器の激しい演奏と歌いあげていくヴォーカルによって構成される音。これは、しっとりと形容されるような穏やかな楽曲ではないでしょう。ちなみに、FictionJunction YUUKAの近年のライヴではCD音源よりもやや激しい歌唱と演奏が行われている楽曲ですから、奏らしい歌い方や演奏を許容する一定の強度があるとも思います。

過去の『jewelries!』シリーズにて『蛍火』が加蓮(渕上舞様)の清涼感に長けた歌声によって新しい魅力を得ましたが、『romanesque』では対照的に、原曲の清涼感あるヴォーカルとは異なる魅力をもつ奏(飯田友子様)の歌声が楽曲に新たな魅力を与えるに違いありません。

奏の為人との関係にも自信があります。奏は挑戦的かつ挑発的ですが決して軽薄でも下品でもありません。気品ある人物です。また、大人びているものの、17歳の少女ならではの振る舞いも時折みせます。歌詞に下品な表現や、年齢に不相応な表現がないことも、『romanesque』が奏に相応しいと判断した理由です。様々な楽曲を検討しましたが、情熱と品性、そして大人っぽい雰囲気と少女性の極めて微妙なバランスがこれ以上に奏に相応しいと思える楽曲は見つけられませんでした。

そして、速水奏が『romanesque』を歌うにあたって非常に重要な条件に、アルバム収録版の『Full Size Mix』であることを挙げます。シングル版より30秒ほど長いこの版には”夢のような時に終わりは来るのね 寂しい額には月の優しさ……”という一節が追加されています。最後の盛り上がりを引き立てる溜めとしての機能はもちろん、奏の冷静な現実観や世界の無常性を強調するための不可欠な要素です。また、奏の額をみせる髪型や、月との縁も示しています。

楽曲が奏に新しい魅力を与え、奏の為人や、奏(飯田友子様)の歌声が楽曲に新しい魅力を与えることを確信しています。そして『シンデレラガールズ』シリーズ全体や『Hotel Moonside』といった、あらゆる関連要素の面白さまでをも大幅に拡張することでしょう。この美しく激しく切ない楽曲を絶対に奏に歌っていただきたいのです。公募開始以前より年単位で検討し続けた果ての、乾坤一擲の選曲です。どうぞよろしくお願いします。

応募意図の解説

現在の『jewelries!』シリーズの性質について

現在の『シンデレラガールズ』シリーズには190人以上のアイドルが存在します。その内、CVが既に設定されているアイドルは約60人のみですが、CV設定や楽曲の制作は継続的に行われており、活躍の機会は多数のアイドルに分散する傾向があります。

特に、ソロ楽曲を与えられる機会については、平等性が保たれ続けています。例えば、渋谷凛は、『シンデレラガールズ』において最初にオリジナルソロ楽曲を与えられたアイドルであり、3代目シンデレラガールでもあります。名実ともに、『シンデレラガールズ』を代表するアイドルの内の1人です。しかし、凛に2曲目のオリジナルソロ楽曲が与えられたのは2016年になってからのことです。この事例は、現在の『シンデレラガールズ』シリーズの構造における、ソロ楽曲の獲得難度の高さを象徴しています。

現在の構造が変わらない限りは、『シンデレラガールズ』の各アイドルがその〈生涯〉の内に歌を残せる回数はとても少なくなりますし、『シンデレラガールズ』の展開がどれだけ長期化しても、各アイドルの活躍の機会の希少性は維持されます。

したがって、『シンデレラガールズ』におけるソロ楽曲は、次のソロ楽曲が与えられるまでの年単位の空白期間に耐え得る強度がある楽曲でなければならないと考えています。『jewelries!』シリーズにて与えられるカヴァー楽曲も例外ではありません。アイドルの〈生涯〉において1度だけかもしれない貴重な機会ですから、迂闊な選曲は絶対に許されてはならないと考えています。

以上の理由から、「奏に必要なカヴァー楽曲は、『Hotel Moonside』と合わせた2曲だけでも奏が数年間輝き続けられるほどの強度を有する、究極的かつ圧倒的なものである必要がある」という結論に至りました。そして、私は以下の条件を設け、候補楽曲を厳選しました。

第1条件:奏との関係が、2曲目のオリジナルソロ楽曲としても通用するほどに強いこと

『jewelries!』シリーズは、〈最初で最後の可能性があるカヴァー歌唱の機会〉であるとともに、〈数年に1度しか与えられない貴重なソロ歌唱の機会〉でもあるため、〈カヴァーならではの特殊性〉と〈アイドルの在り方への忠実性〉という対照的な要素の取捨選択を強いられました。

『CINDERELLA MASTER』シリーズなどにおけるオリジナルソロ楽曲によってアイドルの人物像や魅力が既に充分に表現されていると判断できる場合には、やはり、〈カヴァーならではの特殊性〉を優先すべきだと考えています。

しかし、奏の人物像や魅力は、多面的で複雑で繊細です。『Hotel Moonside』だけでは充分に表現されていないと判断しました。

また、過去のシンデレラガール総選挙における奏の順位が一定以下の水準に留まり続けていたことなども考慮すると、奏が高頻度で活躍することへの期待は難しかったため、『jewelries!』第3弾におけるカヴァー楽曲が奏の最後のソロ歌唱楽曲となる可能性は決して無視できませんでした。

以上の理由から、今回は〈アイドルの在り方への忠実性〉を選択し、『Hotel Moonside』では充分に表現されなかった性質を強烈に体現できる、〈速水奏の2曲目のオリジナルソロ楽曲としても通用する楽曲〉を選ぶべきだと判断しました。奏の多面的な魅力を僅かな楽曲だけで表現することは不可能だと考えていましたが、それでも、『Hotel Moonside』の対となり、2曲が揃えば奏の魅力が完全に表現されるような選曲を目標としました。

そして、今回の応募楽曲に要求する要素を以下の通りに定めました。以下の要素は全てが奏に不可欠な特徴だと考えていますし、私が奏を好む理由でもあります。
Mobage版におけるSRカードにて頻出する幻想的な姿との親和性
・冷静かつ現実的な世界観と、それに基づきつつも情熱的に追求される浪漫
・哲学的な傾向
・寂寥感

また、奏の在り方に忠実な楽曲でなければならないため、奏の為人と矛盾する要素がある楽曲は候補から徹底的に除外しました。例えば、奏は大人びている一面と繊細な少女らしい一面を併せ持つ人物ですから、大人過ぎる楽曲でも、子供過ぎる楽曲でも相応しくありません。飲酒や喫煙などの、17歳には許可されていない行為を行う楽曲も不適格です。また、奏は挑発的な振る舞いを繰り返しこそするものの、知性と気品を備えているとともに、超えられない領域にいつまでも留まり続けている人物ですから、言葉遣いや価値観などが知性的ではない楽曲や、下品な楽曲や、過度に勇敢な楽曲も不適格と判断しました。

そして、他者や異性の視点を歌う楽曲も候補から除外しました。他者や異性の視点を用いて自らを表現する楽曲は、珍しいものでは決してありません。むしろ、とてもありふれている、普遍的な表現手法だと思います。しかし、前述した諸条件に加えて、奏の他者との微妙な距離感なども想定した結果、奏の視点として成立する楽曲が相応しいと判断しました。(奏が意識している他者との距離感は、後に『スターライトステージ』のストーリーコミュ第25話でも示されました)

第2条件:奏自らが述べた歌への想いを尊重すること

奏は『ぷちエピソード』および『マジックアワー』において、歌への言及を以下の通りに行っています。

歌って、いいわよね。聞いていると胸震えるし、歌っていれば気持ちがいいもの。もっとも、伝える側は大変だけどね。

曲と詩の世界が合わさって、まるでひとつの物語を伝えているみたい。でも、悲しい歌ばかり好んでしまうのは不思議だけど。

プロデューサーさんは、どんな歌が好き?私は、激しくて悲しい、恋の歌が好きかしら。破滅に向かうような、そんな歌……。

もっとも、歌うなら希望がある歌がいいわね。歌の世界にまで救いがなかったら、切なすぎるもの。……そう思わない?

(出典:ぷちエピソード 速水奏Voレッスンエピソード2)

(リスナーからの質問)奏さんの曲『Hotel Moonside』、大好きです。でも、新しい曲も聴いてみたいです。次歌うなら、どんな曲を歌ってみたいと思いますか?

(奏の回答)うーん。歌ってみたい曲、ねえ。私の曲『Hotel Moonside』は、クールでエレクトロなダンスサウンドだから、歌っていて気持ちいいわね。次の曲は…… 悲しくて報われない、恋の歌なんてどうかしら。……ふふっ、しっとりとした曲は似合わないかもしれないから、やっぱり、BPMが高めの曲がいいわね。後は、ひとりじゃなくて、誰かと歌ってみるのもいいかな。声が合わさると、曲に厚みが出て、すごく気持ちいい歌になるから。

(出典:マジックアワー 第22回)

歌についての奏の趣味や意向を私なりに要約した結果は以下の通りです。
・激しくて悲しい恋の歌
・希望がある歌
BPMが高めの曲

「奏の意思に敢えて背くことで奏の新しい可能性を示すことができる」などと考えることもできます。しかし、今回の企画は、奏にとっては最後かもしれない貴重な機会です。奏自らの趣味や意向が反映された楽曲を歌える機会は、今後永遠に訪れないかもしれません。また、2度の言及の内容に共通性があることから、奏という人物にとって、歌への想いは極めて重要な要素であると判断しました。したがって、奏の意思は決して軽視せずに、楽曲選定に確実に反映させるべきだと考えました。

応募楽曲への想い

私は、『jewelries!』第3弾の制作発表前から奏に相応しいカヴァー楽曲を検討していました。『jewelries!』第3弾の制作が発表されてからは、毎日、各媒体における奏の発言を確認しつつ、様々な候補楽曲を探し、専用のプレイリストを用意して『Hotel Moonside』との聴き比べを延々と続けていました。以上の諸条件に基づいた厳選の結果、候補が『romanesque』のみになりました。その後も応募の寸前まで悩み続けていましたが、最終的には、『romanesque』こそが究極の1曲だと確信するに至りました。

また、投稿期間およびその前後の期間には、Twitterなどで頻繁に検索を行い、奏に応募された楽曲を調査していました。しかし、前述の要素のいずれかを欠く楽曲が挙げられている場合がとても多い印象がありました。したがって、応募文章には自らの希望だけでなく、私が望まない楽曲が採用される可能性を排除する意図も含めました。当時の全力を注いだ文章でした。しかし、数ヶ月経った今読み直すと稚拙で、反省せざるを得ません。

ただし、『romanesque』という選曲が正解の内の1つだという自信は、応募当時から保ち続けています。そして、先日Mobage版に実装された新カード[カタルシスの華]および『思い出エピソード』において、〈果たされない理想の象徴としての夏(厳密には、夏の象徴と解釈できる温暖な地域)〉や〈冷静かつ現実的な世界観と情熱や理想の葛藤〉といった要素に『romanesque』の歌詞との共通性を見出し、選曲への自信は更に強くなりました。選曲に後悔はしていません。

結果への感想

『奏』が選ばれた要因の1つに、「カヴァーならではの特殊な要素を含んだ楽曲を採用したい」という類の意思があると推察しています。

まず、一人称が”僕”であることや、”なってく”や”違く”という、奏が通常はあまり用いない粗い言葉遣いは、「カヴァーならではの楽曲を採用したい」という意思が無ければ採用され得ない要素だと考えています。

また、歌詞全体についても同様です。奏の人物像や、プロデューサーなどの他者との関係を想起させる要素を備えている一方で、奏の歌としては素直さや爽やかさなどの諸要素が過剰だと感じます。やはり、通常の作品では今後も決して描かない類の、奏の可能性を表現する意図があると思います。

そして、通常は奏に与えられないであろう性質の楽曲がカヴァーとして歌われることで、奏の素直ではない複雑な性質がメタ的に演出されていると解釈することもできます。

私の観測範囲内では邪推を散見しますが、『奏』は題名だけを理由に選ばれた楽曲ではないと解釈できます。〈カヴァーならではの特殊性〉を優先する価値観においては特に、妥当な選曲として扱われ得る資質があると思います。

しかし、私の思想や願望や嗜好や感想は、客観的評価とは別の領域の問題です。『奏』は、前述した私の思想とは何もかもが対照的で、私が望んだ奏の歌と乖離しています。しかも、好みの類の楽曲でもありません。この結果は、とても残念です。決して満足ではありません。

そして、『シンデレラガールズ』の構造が変わらない限り、私が好んでいる奏の性質が楽曲によって表現されたり、私が好む類の楽曲を奏が歌う機会が与えられるまでには、数年間の空白期間があることになります。永遠に実現しない可能性すらあります。最初から覚悟していたことですし、私の実力が足りなかった結果と考えてもいますが、奏のソロ楽曲が『Hotel Moonside』と『奏』しか存在しない状況が数年間続くことを想像すると、やはり、とても悔しいです。

プロデューサー同士の〈平行線〉をアイドルが超えていくとしても、結局、アイドルに与えられる活躍の機会も、プロデューサー(ユーザー)がアイドルを制御できる機会も、ごく僅かです。そして、自らが〈平行線〉を成すものである限り、彼岸へ行ってしまったアイドルに対しては、此岸に再び辿り着くことを祈り続けることしかできないのだと、今回の結果によって改めて思い知りました。そして、この記事もまた、祈りのかたちを示すものです。